確定給付企業年金(DB)から退職する際、「脱退一時金」として一括で受け取るか、「年金として将来受給」するか、または別の制度に「移換」するかの選択を迫られます。本記事では、それぞれの選択肢を詳しく比較し、判断軸・シミュレーション・落とし穴を解説します。
確定給付企業年金(DB)とは
- 会社が拠出・運用責任を負う企業年金制度
- 給付額が事前に確定している(DCと違い運用リスクは会社負担)
- 退職時に「脱退一時金」「年金」「移換」の選択が可能
- 2024年現在、加入者数は約940万人(多くの大企業が採用)
3つの選択肢
選択肢1:脱退一時金として一括受取
勤続期間に応じた一時金を退職時に受け取る方法。
- 受取時期:退職後1〜3か月以内
- 税制:退職所得(退職所得控除+1/2課税)
- メリット:すぐに資金化できる、運用リスクなし、確実性が高い
- デメリット:将来の年金原資を失う、長期的な資産形成機会の喪失
選択肢2:年金として将来受給
制度に残し、定年後等に年金として受給する方法。
- 受給開始:60歳〜65歳(制度規約による)
- 受給期間:5年〜終身(制度による)
- 税制:雑所得(公的年金等控除)
- メリット:終身受給可能(制度による)、運用は会社責任
- デメリット:制度の解散リスク、受給まで長期間待機
選択肢3:他制度への移換
iDeCoや企業型DCに移換して運用継続する方法。
- 移換先:iDeCo、転職先の企業型DC、企業年金連合会
- メリット:運用継続、受給開始時期に柔軟性、複利効果
- デメリット:DC化することで運用責任が自己負担に
- 移換手続きは退職後6か月以内が原則
判断のための4つの視点
1. 必要な手元資金
住宅ローン残高、子の教育費、生活防衛資金が不足するなら一時金が現実的。
- 住宅ローン残債500万円超 → 一時金で繰上返済が有効
- 子の大学進学 → 教育費の確保
- 独立・起業準備 → 開業資金
2. 他の退職金との合算
会社退職金や中退共と合算して退職所得控除を超える場合は、年金受取で分散したほうが税負担を抑えられる。
- 会社退職金1,500万円 + DB700万円 = 2,200万円
- 勤続30年の控除1,500万円を超過
- 一時金で全額受取 → 税負担100万円超
- DBを年金で分散 → 税負担40万円程度
3. 健康状態と寿命予測
年金は終身受給だと長生きするほど有利。短命リスクがあるなら一時金が有利。
- 健康に自信あり、長寿家系 → 終身年金が有利
- 持病あり、短命家系 → 一時金が有利
- 女性は平均寿命が長く年金有利
4. 投資知識・リスク許容度
iDeCoに移換して自分で運用する自信があれば、長期リターンを狙える。運用に自信がなければDB継続のほうが安全。
シミュレーション例
勤続25年・DB残高700万円・55歳退職のケース:
選択肢A:全額一時金
会社退職金1,500万円と合算 → 退職所得控除(25年勤続)1,150万円超過 → 課税対象1,050万円の半額に課税 → 税負担 約110万円。手取り 2,090万円
選択肢B:年金受取(10年分割・年70万円)
会社退職金1,500万円のみ退職所得 → 控除内で非課税 → 1,500万円フル受取。
DB年金部分は雑所得として10年に分散 → 公的年金等控除(55歳〜は年60万円)で大半が非課税。手取り 約2,150万円
選択肢C:iDeCo移換 + 65歳一時金受取
10年運用で残高 約900万円(年利2.5%想定) → 65歳で会社退職金とは別年に受給 → 控除フル活用。手取り 約2,300万円(運用次第)
選択肢D:終身年金受取
60歳から月額3万円終身受給。85歳まで生存で受給総額900万円超。長生きするほど有利
制度解散リスク
DB制度は会社が運営しているため、会社の経営状況により制度解散・統合のリスクがあります。
- 解散時:積立金から「分配金」として分配
- 分配金は退職金としての税制が適用
- 制度解散があっても、加入者の権利は守られる仕組み
- ただし将来受け取る予定の年金額が減る可能性あり
移換先の比較
| 移換先 | 特徴 | 向いている人 |
|---|---|---|
| iDeCo | 運用商品自由・運用継続 | 運用知識ある人、若年退職者 |
| 転職先の企業型DC | 転職先で継続加入 | 転職先がDC加入企業 |
| 企業年金連合会 | 無難な選択肢、終身年金可 | 運用に消極的、長寿希望 |
監修者からのアドバイス
DB脱退一時金の判断は、「会社退職金の受取年」と「DB受取年」をずらせるかどうかが手取り最大化の鍵です。退職所得控除は同一年に複数の退職金を合算するため、年をずらすだけで控除を倍使えるケースがあります。
また、移換先のiDeCoでは55歳以降の受取制限(10年継続加入要件等)があるため、年齢によっては移換が不利になることも。退職予定の3〜6か月前から戦略を立てることが理想です。
iDeCoへ移換する場合、運用商品の選択が重要です。退職時の年齢が55歳以上なら、リスクの低い元本確保型・債券型を中心に組み立てるのが定石。リスク取れる商品で大きな損失を出すと取り返せません。
制度規約は会社により大きく異なります。「終身年金OK」の制度もあれば「10年定額」しかない制度もあります。退職を検討し始めたら、まずDB制度規約のコピーを総務・人事に依頼してください。
個別ケースでの最適選択は、無料相談でシミュレーションします。